仕事を辞めて失業保険を受けようと考えている方は、実際にいくらもらえるのかを理解しておくことが大切です。
失業保険の額をシミュレーションする機会はそこまで多くないので、計算式は複雑なのではないかと心配な方もいるでしょう。しかし、失業保険の給付金額を計算する計算式はシンプルなので、これから解説する計算式を使えば、おおよその受給額がすぐにわかります。
本記事では、失業保険がいくらもらえるのかを計算する方法や受給条件、申請時の注意点などを解説します。受給額を把握すれば、離職後の生活費の心配が減りますし、安心して就職活動を進めていくモチベーションにもなるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
失業保険とは?
「失業保険(失業手当)」とは、失業した国民が安定した生活を送りながら新しい仕事を見つけられるように、国から支給される手当のことです。失業をして無職になると、安定した収入を得られなくなり、生活が不安定になるので、就職活動をおこなう金銭的余裕がなくなってしまいます。失業保険は、そのような状況を防ぐために設けられている制度といえます。
また、失業保険に似たものとして「再就職手当」という制度が存在します。これらの手当は、目的がそれぞれ異なります。
まず失業手当は、失業期間中に一定の条件を満たせば、原則として毎月支給される手当です。一方、再就職手当は失業手当の受給中に再就職が決まった場合にのみ、一括で支給される手当です。つまり、再就職手当は早く仕事を見つけようとする方を支援するための制度と言えます。
失業保険をもらうための条件
就職活動に取り組んでいること
失業保険を受給するためには、積極的に就職活動をおこなっていることが第一条件として求められます。ハローワークへの求職登録や求人サイトへの応募、紹介会社への登録など、さまざまな方法で就職活動をおこなった上で、その実績をハローワークに報告することが必須条件とされています。
就職活動の実績がない場合や活動があまりにも足りないと判断された場合は、失業保険の受給が認められない可能性があります。
一定以上の被保険者期間がある
失業保険を受給するためには、一定期間、雇用保険に加入していることが求められます。以下の3パターンのうち、あなたはどのケースに当てはまるのかチェックしてみましょう。
➀【自己都合退職】一般の離職者
このケースは、別の仕事への就職や独立などを始めとして、自身の意思で会社を辞めた場合に当てはまります。一般的に、失業保険を受給する多くの方が該当するケースと言われています。
一般の離職者が失業手当を受け取るためには、「離職日以前の2年間で、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上」という条件を満たす必要があります。ただし、病気や家族の介護などのやむを得ない理由で退職する場合には、「特定理由離職者」として認められ、より有利な条件で失業手当を受けられる可能性があります。
➁【自己都合退職】特定理由離職者
上記のように、育児や介護などの事情で会社を退職した場合は、自己都合退職であっても特定理由離職者に該当する可能性があります。
特定理由離職者が失業保険を受給するためには、「離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上ある」という条件を満たす必要があります。
➂【会社都合退職】特定受給資格者
特定受給資格者とは、会社の倒産や急な解雇によって、離職を余儀なくされた場合に当てはまるケースです。このケースは、離職者の意思が反映されていない会社都合の退職なので、一般離職者よりも早く失業手当を受け取れたり、健康保険料や住民税が軽減されたりするケースもあります。
なお、特定受給資格者が失業保険を受給するために必要な条件は、特定理由離職者と同様に「離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上ある」ことです。
失業保険がいくら受け取れるかを計算する方法
①賃金日額を計算する
まずは、失業手当として受け取れる賃金日額を計算する必要があります。具体的には、以下の計算式で算出します。
賃金日額=離職前6か月間の給与※の合計額÷180日
※給与:通勤手当などの手当は含まれるが、賞与(ボーナス)は含まれない
なお、賃金日額には以下のように上限と下限があります。
離職時の年齢 | 上限額 | 下限額 |
29歳以下 | 14,130円 | 2,869円 |
30〜44歳 | 15,690円 | |
45〜59歳 | 17,270円 | |
60〜64歳 | 16,490円 |
②基本手当日額を計算する
次に、①で求めた賃金日額に所定の給付率を掛けて基本手当日額を計算しましょう。具体的な計算方法は、以下の通りです。
基本手当日額=賃金日額 × 50〜80%
なお、基本手当日額の給付率は、賃金日額と離職時の年齢によってパーセンテージが異なります。計算するときは、以下の表を参考にしてください。
<基本手当日額の給付率>
離職時の年齢 | 賃金日額 | 給付率 |
60歳未満・65歳以上 | 5,199円以下 | 80% |
5,200~12,790円 | 80%~50% | |
12,791円以上 | 50% | |
60 〜 64歳 | 5,199円以下 | 80% |
5,200~11,490円 | 80%~45% | |
11,491円以上 | 45% |
<基本手当日額の上限と下限>
離職時の年齢 | 上限額 | 下限額 |
30歳未満・65歳以上 | 7,065円 | 2,295円 |
30 〜 44歳 | 7,845円 | |
45 〜 59歳 | 8,635円 | |
60 〜 64歳 | 7,420円 |
③給付期間をチェックする
給付期間は、会社を退職した理由が「自己都合」か「会社都合」かによって異なります。
以下では、自己都合・会社で離職した場合の給付日数をそれぞれまとめました。
<自己都合・やむを得ない理由で離職した場合の給付日数>
被保険者期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
<会社都合で離職した場合(特定受給資格者)の給付日数>
雇用保険の被保険者だった期間 | |||||
離職時の年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
〜 30歳 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ─ |
30 〜 34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35 〜 44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45 〜 59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60 〜 64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
会社都合で仕事を辞めたときの給付日数は、90〜330日となります。上の表を見ると、子育てなどで出費がかさむ30〜50代がもっとも手厚い保障を受けられるのがわかります。
多くの場合、失業手当を受け取れる期間は3〜4か月程度なので、就職活動をおこなうときは、いつまでに内定を得たいかを決めた上で、計画的に進めていきましょう。
④最後に支給総額を計算する
最後に、②と③で求めた基本手当日額に給付日数を掛けることで、失業手当の支給総額がわかります。具体的な計算式は、以下になります。
支給総額 = 基本手当日額 × 給付日数
失業保険の支給総額の計算例
ここからは、具体的にイメージできるように支給総額の計算例をまとめました。今回は以下のような条件で計算を行っています。
離職時の年齢:25歳
雇用保険の被保険者期間:3年
退職前6か月月間の賃金:1,909,800円
賃金日額の計算
賃金日額は、退職前6か月間の賃金合計を180日で割った金額になります。今回の場合は以下のように10,610円が賃金日額にあたります。
賃金日額 =1,909,800円 ÷ 180日 = 10,610円
基本手当日額の計算
基本手当日額は、賃金日額に給付率を掛けた金額です。離職時に25歳で賃金日額が1万610円の場合、給付率は58.61%なので、次のように計算します。
基本手当日額 = 1万610円 × 58.61% = 6,219円
基本手当総額の計算
基本手当総額は、基本手当日額に給付日数を掛けた金額です。離職時の年齢が25歳で雇用保険の被保険者期間が3年間の場合、失業保険の給付日数は90日になるので、以下の計算となります。
基本手当総額 = 6,219円 × 90日 = 559,710円
【離職理由別】失業保険の所定給付日数
失業保険の給付額を計算するときは、離職理由も非常に重要な要素です。離職理由によって所定給付日数が変わるので、あなたの離職理由はどれに該当するのかをしっかりと理解しておきましょう。
離職理由 | 所定給付日数 | ハローワークの受給区分 |
転職や独立、懲戒解雇など | 90日~150日 | 一般受給資格者 |
倒産・解雇などの会社都合による離職 | 90日~330日 | 特定受給資格者 |
有期雇用で本人の更新希望が通らなかった | 90日~330日 | 特定理由離職者1 |
病気・ケガ・妊娠・看病、希望退職者に応募した | 90日~150日 | 特定理由離職者2 |
定年退職 | 90日~150日 | 定年退職者 |
65歳以上で退職(高年齢求職者給付金) | 30日または50日 | 高年齢被保険者 |
なお、実際にどの離職理由に当てはまるのかは、求職者の一存では決められません。具体的には、退職した会社の人事担当がハローワークに申請し、その後にハローワークが会社と離職者双方の話を踏まえて最終決定します。
ハローワークでの受給手続きについて
ハローワークで申し込む
まずは、最寄りのハローワークで失業の申告をおこないましょう。申告をするときは、離職した会社から受け取った「雇用保険被保険者離職票」を持参してください。「雇用保険被保険者離職票」には、あなたの雇用保険加入期間や賃金などの情報が記載されており、手続きを進める上で必要不可欠な書類です。
多くの場合、「雇用保険被保険者離職票」は離職してすぐに交付されるものですが、会社や時期によっては手続きに時間がかかるケースもあります。退職してから2週間以上経過しても離職票が交付されない場合は、速やかに会社の人事担当へ問い合わせましょう。
ハローワーク主催の説明会に参加する
ハローワーク主催の説明会では、失業保険の仕組みや受給資格、求職活動の方法などを学べます。
特に受給資格に関しては、正しく理解しないまま手続きを進めてしまうと、給付額や給付日数が少なくなってしまうおそれがあるので注意が必要です。説明をしっかりと聞き、疑問点などがあればその場で質問するようにしましょう。
受給手続きを進めて失業認定を受ける
説明会後はハローワークに行き、失業認定申告書を提出する必要があります。失業認定申告書とは、あなたが実際に失業している状態であることを示すための書類です。なお、失業認定を受ける日付はハローワークから指定されるので、忘れないように気をつけましょう。
また、初回は1回以上の求職活動のみで失業認定をもらえますが、2回目以降も失業認定を受けるには、2回以上の求職活動が必要となります。2回目以降も受給の継続を希望する場合は、4週間ごとにハローワークへ行き、失業認定を受ける必要がある点も頭に入れておきましょう。
ハローワークで失業保険を申請するときの注意点
失業保険を申請するときは、不正受給は絶対にしないようにしてください。
たとえば、受給期間中にアルバイトをしていたのに申告しなかったなどの不正行為により基本手当等を受けようとした場合は不正受給に該当します。なお、実際に給付を受けたか否かに限らず、嘘の申請をしていると判断されたときは、不正受給とみなされます。
不正受給が発覚した場合、全額返還だけでなく、その2倍にあたる罰金まで支払う処分が課せられる可能性があります。
返還や納付義務に応じない場合、財産を差し押さえられたり、悪質な場合は刑事事件として告発される場合もあります。このように、かなり厳しいペナルティが課せられますので、不正受給は絶対にNGです。
失業したときは失業保険の手続きを迅速に進めよう
仕事を辞めたら、なるべく早くハローワークへ行きましょう。失業手当の手続きをスムーズに進めれば、生活の安定を図れるので、精神的余裕をもって就職活動に取り組めます。原則として、失業手当は離職後1年以内であれば受給できますが、申請が遅れると受け取れる金額が減ってしまう場合があるため、注意が必要です。
また、再就職が決まった場合でも、給付日数が残っていれば再就職手当を受け取れるケースもあります。早く新しい仕事を見つければそれだけ多くのお金を受け取れるので、就職活動のモチベーションにもつながるでしょう。
失業中は不安なことも多いですが、ハローワークの支援を活用して、新たな一歩を踏み出しましょう。
- 退職の直前6か月の給与によって給付額は変わる
- 給付日数や給付率は退職の種類による
- 不正受給は絶対にNG!
特定理由離職者に当てはまる人