失業保険は雇用保険や失業手当とも呼ばれる、離職した労働者のための制度です。一定の要件を満たす離職者は定期的に手当を受給することができ、再就職まで経済的に安定した状態で求職活動を行えます。
失業保険で受給できる金額は、離職前の賃金や雇用形態、退職理由によっても大きく異なってきます。そのため、自分が受け取ることのできる金額の計算方法を理解しておくことで、安心して次の就職先を見つけることができるでしょう。
失業保険の計算方法ともらえる金額を正しく理解しよう
失業保険でいくらもらえるのかを計算するために重要となるのは、退職理由と退職前180日間の賃金です。
賃金は自分で確認することができますが、退職理由は離職者の申告では決まらず、最終的にハローワークが判断することになります。ただし、特殊な事情でない限りは、事前に考えていた退職理由と別の理由として扱われることは少ないでしょう。
この記事で紹介する計算方法と退職理由の区分を理解した上で、今後の生活を支える重要な失業保険の受給金額の目安を確認しておきましょう。
失業保険の給付日数は退職理由によって変わる
失業保険を受け取ることのできる日数は、退職理由と雇用保険の被保険者であった期間に応じて、最小90日から最大330日まで幅広く設定されています。まずは、それぞれの退職理由に当てはまるケースや被保険者期間から、自身の給付日数を確認しましょう。
自己都合で退職した一般受給資格者の場合
被保険者期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
自主的な転職や退職、または事前に期間が定められていた雇用契約の満了などによって離職した場合は、自己都合退職として扱われ、離職前の2年間のうちに雇用保険の被保険者であった期間が12か月以上必要となります。
これらの条件を満たす離職者を「一般受給資格者」と呼び、上記の受給期間が適用されます。
一般受給資格者は、年齢に関わらず、被保険者期間のみをもとに給付日数が決定されます。
会社都合で退職した特定受給資格者の場合
被保険者期間 | |||||
離職時の年齢 | 1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ─ |
30〜34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35〜44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45〜59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60〜64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
会社の倒産や一方的な解雇などを理由に離職した方は、会社都合退職として扱われ、離職前の1年間に6か月以上の被保険者期間があれば失業保険を受給できます。
会社都合退職の場合は「特定受給資格者」の受給期間が適用され、一般受給資格者と比べて手厚い日数で受け取ることができます。
会社都合の退職には、事業所の移転に伴い通勤が困難になった場合や、大量の離職者が予定されていた場合なども含まれます。ただし、会社都合として認められるには、その事実が確認できる資料を提出する必要があります。退職が決まった段階で、それらの資料を大切に保管しておくようにしましょう。
やむを得ない理由で自己都合退職した特定理由離職者の場合
自己都合の退職であっても、身体的な問題や、契約更新の打ち切り、介護など、やむを得ないと判断される事情で離職した場合は「特定理由離職者」として扱われる可能性があります。
この場合も会社都合と同様に、離職前の1年間に6か月以上の被保険者期間があれば失業保険の支給対象となります。
特定理由離職者として認められる事情は多岐に渡りますが、認められれば会社都合退職の場合と同様の給付日数となるため、退職理由や事情を示す資料を十分に揃えておくことをおすすめします。
失業保険の計算方法
失業保険の受給金額は、上記の式で計算することができます。ここで必要となる、「所定給付日数」と「基本手当日額」について、それぞれの確認方法を説明していきます。
①所定給付日数を確認する
所定給付日数は、退職理由や退職時の年齢、被保険者期間に応じて変動します。前述の退職理由ごとの給付日数が、所定給付日数にあたります。
最小でも90日が付与されるため、これを最低限受け取ることができる期間の目安として考えておくことで、実際に給付が決定した後に経済的な問題が生じにくくなるでしょう。
ただし、退職時に65歳以上だった方は、通常の失業保険ではなく「高年齢求職者給付金」の対象となり、30日または50日が給付日数となります。
②賃金日額と基本手当日額を計算する
出典:雇用保険法改正リーフ|厚生労働省を加工して作成
基本手当日額は、賃金日額に年齢ごとの給付率を掛けた金額です。賃金日額とは、「離職した日の直前の6か月に毎月決まって支払われた賃金」の合計を180で割った金額です。1円未満の数が出た場合は、切り上げて計算を行います。
さらに、この賃金日額と年齢に応じて決定される45%~80%の給付率を、賃金日額に掛けた金額が「基本手当日額」となります。
基本手当日額には下限と上限が設定されているため、給付金額が少なすぎたり、過剰に給付されることはありません。また、どちらも定期的に金額が見直されるものであるため、最新の情報を必ず確認しておきましょう。
③所定給付日数に基本手当日額を掛ける
所定給付日数と基本手当日額の計算ができたら、この2つを掛けることで最終的な総支給額を導き出すことができます。
ただし、この総支給額が一度に振り込まれることはありません。約4週間ごとの失業認定を受けることで、前回の失業認定からの日数分の給付を受けられるという形式になっています。
すぐに全額を受け取れるわけではないため、離職中に大きな出費を見込んでいる場合は注意が必要です。
【手取り額別】失業保険の計算シミュレーション
失業保険の総支給額の計算シミュレーションを確認してみましょう。今回は以下のような条件で、手取り額のみ変更して計算を行っています。
- 退職時に30歳
- 雇用保険の被保険者期間が10年
- 一般受給資格者(自己都合退職)
手取り10万円の場合
まず、30歳以上で被保険者期間が10年である一般受給資格者の、給付日数は120日です。
次に、手取り10万円の方は、額面では約13万円の月収が目安です。今回の条件では、月収13万円の場合の賃金日額は「130,000(円)×6(月)÷180=4,334円(切り上げ)」となります。
この賃金日額の場合、給付率は80%で固定なので、総支給額は以下のようになります。
4,334×0.8×120=416,064円
手取り20万円の場合
手取り20万円は、額面では約25万円となります。この場合、賃金日額は「250,000(円)×6(月)÷180=8,334円(切り上げ)」です。
給付率は50%~80%となるため、最小の総支給額と最大の総支給額はそれぞれ以下のようになります。
最小:8,334×0.5×120=500,040円
最大:8,334×0.8×120=800,064円
手取り30万円の場合
手取り30万円の場合の額面は、およそ38万円です。これを基に賃金日額を計算すると、「380,000(円)×6(月)÷180=12,667円(切り上げ)」となります。
この賃金日額の場合、給付率は50%で固定です。総支給額は以下のようになります。
12,667×0.5×120=760,020円
失業保険の申請から受給までの流れ
離職票などの必要書類を用意する
失業保険の申請には、離職後に前職から発行される「離職票」が必須となります。そのため、退職してすぐにハローワークに行っても仮手続きまでしか行うことはできません。
離職票は通常、退職後2週間程度までに送付されます。もし送付されない場合には、退職前の職場に問い合わせるか、ハローワークの窓口でその事情を説明しましょう。
また、離職票の他にも、身分証や銀行口座のわかるものなどが必要になります。以下のリストを確認し、いずれも忘れずに持参しましょう。
- 離職票
- 個人番号が確認できる書類
- 本人確認書類
- 証明写真2枚(マイナンバーカードがある場合は不要)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
- 退職理由を示す資料(必要な場合)
ハローワークで求職申し込みを行う
必要な書類が用意できたら、ハローワークの開庁時間の間に、窓口で「求職の申し込み」を行いましょう。その後、受給資格や退職理由の確認が行われます。
確認が取れたら、一定の待機期間の後、「雇用保険受給者初回説明会」に参加するよう案内されます。
この待機期間は、特定受給資格者と特定理由離職者の場合は7日間ですが、一般受給資格者の場合は7日に加えて2か月が設けられています。
雇用保険受給者初回説明会に出席する
雇用保険受給者初回説明会は、失業保険の申し込みを行ったハローワークの付近の会場で行われます。日時の指定があり、説明会への出席は受給のために必須となるので、忘れずに出席しましょう。
説明会の最後には、初回の失業認定日が伝えられます。失業認定日は配布された資料からも確認できますが、メモを取るなどして忘れないようにしておくことをおすすめします。
指定日に失業認定を受けると受給が開始する
失業認定日には、失業状態であることの証明として、求職活動の実績が確認されます。初回の失業認定日では、特定受給資格者と特定理由離職者は1回以上、一般受給資格者は2回以上の実績が必要です。
ただし、雇用保険受給者初回説明会への出席も1回の求職活動として数えられるため、実際に求職活動の実績が必要となるのは一般受給資格者のみとなります。
初回の失業認定を受けると、失業手当の給付が開始します。その後は、約4週間ごとに失業認定を受けることで、前回の失業認定日からの日数分、失業手当を受給することができます。
失業保険を受給する際の注意点
不正受給は絶対にNG
虚偽の申告や資料の偽造などを行い、不正に本来よりも多くの失業手当を受け取ることは絶対にやめましょう。
不正受給が発覚した場合、それまでの受給額の返還だけでなく、最大でその2倍の罰金が科せられます。
また、失業手当の支給もその時点で打ち切りとなるため、経済的に非常に苦しい状態でその後の求職活動を行わなければならなくなってしまいます。
離職票の退職理由が必ず適用されるとは限らない
企業から発行された離職票に記されている退職理由が、自分の考えていたものとは異なる場合があります。しかし、最終的な退職理由は、離職票だけでなく提出された資料などをもとにしてハローワークが判断します。
そのため、自分の考える退職理由を証明できる資料や記録を提出することで、離職票の表記とは異なる種別として扱われる可能性があります。
反対に、資料なしに退職理由が異なることを主張しても大きな効果は見込めません。判断材料となる客観的な資料を必ず用意するようにしましょう。
受給中に働いた場合は申告が必須
失業保険の受給中にも、アルバイトやパートで働くことは可能です。1日の労働時間が4時間未満であった場合、その収入額に応じて、その日の分の支給額が減額されます。また、1日に4時間以上働いた場合は、その日の分の支給額は0円となります。
これらの対応は自動では行われないため、受給者からの申告が必要です。ただし、働いたことを隠して不正受給をした場合、その事実は必ず発覚します。働いた日付や時間を記録しておき、申告を忘れずに行うようにしましょう。
再就職した場合は残りの給付日数に応じて手当をもらえる
失業保険の受給中に再就職が決まった場合、就労条件や残りの給付日数によっては「再就職手当」がもらえる可能性があります。
再就職手当とは、再就職時に残った給付金額の60%または70%分を受け取れる制度で、早期の再就職を促すためのものとなっています。
ただし、受給のためには所定給付日数の3分の1以上が残っている必要があるほか、1年以上の勤務が見込まれることや、退職した企業への再入社でないことなど、複数の条件を満たしていなければなりません。
失業認定を受けるためには継続的な求職活動が必要
失業保険を継続して受給するために必要な失業認定には、求職活動の実績が必要です。求職活動には様々な種類がありますが、失業認定で求められる実績とは、企業への応募や面接、求職者向けのセミナーへの出席などとなっています。
そのため、就職エージェントへの登録や求人情報の検索だけでは、求職活動として認められません。
また、応募した日付や企業名などは自分で書いて提出する必要があるので、選考の結果にかかわらず、必ず記録を残しておくようにしましょう。
失業保険の計算方法と受給条件は必ず確認しよう
失業保険は離職中の生活を支える重要な制度ですが、受給にはいくつかの条件があるため、自分で確認して準備を進める必要があります。
また、受給金額の計算方法を理解し、自分が受け取ることのできる総支給額の目安がわかっていれば、その後の計画を立てるのにも役立ちます。
経済的に安定した状態で再就職を目指すためにも、受給手続きの流れや受給が見込める金額を理解しておきましょう。
- 所定給付日数と基本手当日額を掛けると総支給額がわかる
- 退職の種類で給付日数は大きく変わる
- 申し込みは離職票などの必要書類を揃えてから行おう
所定給付日数 × 基本手当日額 = 給付総額